大宮記念二日目「競輪円舞曲」 （竹林）

　阿佐田哲也著「競輪円舞曲」については何回か書いているのだが、大宮競輪となるとどうしても、この短編の話がしたくなる。

　大宮バンクでの本命から薄目の車券の出現率と平均配当はプラス収支だと気付いた男二人が「本命－薄目」を買い続けた。が、いざ買いはじめるとなかなか出ない。家財を質入してまで通った。数日が経過してやっとついに出た！　男の抱擁までしたのに決定放送は「薄目－本命」でうなだれるという落ちは傑作だった。ぼくも何度か真似事をした。大宮競馬場、大宮600バンクと揶揄される長い直線には「本命－薄目」買いはけっこう有効（もちろんそれでひと財産作れた訳でもないが）だった。資金が乏しくなった最終レースなどは新聞の「本命－無印」を理由なしに買って、（推理の時間が要らない分）早々金網前に陣取ったものだ。

　その「必勝法」もいまではお笑い種だろう。当時と較べて本命の信頼度は格段に下がっているし、薄目と言ったって昔みたいに印の薄い枠番一つとはいかない。車番式が主流だから無印は二つ三つあることになる。

推理が効かない(己の狭量を棚に上げてだが)荒れ場が続き、懐かしき枠番単式車券の「本命－薄目」を無考えで買おうかなどと一瞬考えたが、やめた。無い頭でも振ったり叩いたりすれば、風向きが変わることだってあるはずだ。